メッセージ

 

 

 本年は、長野県松本市の慈泉会(相澤病院)が長野県松本市の相澤病院から日本の相澤病院になり、さらには世界の相澤病院となった記憶に残る2017年度であった。慈泉会の職員である小平奈緒が平昌オリンピックのスピードスケート女子500メートルで金メダルを取ったのである。オリンピックの金メダリストは世界でただ一人である。その偉業を成し遂げた小平が所属する企業が病院であることは衆人の驚きであった。更に、自己のレース直後に行われたライバルのレースに際して、小平の滑りに騒然とする場内に静粛にして欲しいことを要請した。そのレースにおいて、国の期待を一身に背負ったライバルが小平の記録に届かずに敗れて泣き崩れる肩を抱き、健闘を称えた姿が世界の称賛の的となった。また、金メダリストであり平昌オリンピックの日本選手団の主将でもある小平へのインタビューに対する受け答えが聞く人の心を鷲掴みにした。万人の感動を呼び起こした清楚で美しい凛としたスケートの求道者たる小平を支援する相澤病院はどのような病院であろうかという興味と関心が衆人の間に湧き出たのは当然であった。
このような2017年は、理事長の相澤が日本病院会の会長に選出され、6月からその職に就き、相澤は慈泉会最高経営責任者の職に専念することとなり、相澤病院の新院長に田内克典が就任した年であった。また、超高齢社会の進展と人口減少の影響が日本社会に影を落とす中で、2025年問題を乗り越えるための政府主導の医療制度改革が推進された。このような経営環境から、慈泉会は将来に向けて新たなミッションとビジョンを策定し、改革の一歩を踏み出した。「素晴らしい自然と魅力あふれる松本に暮らしたいと思う人が、生涯安心してその人らしく住み続けることが出来る松本を創るために、慈泉会は質の高い医療介護を総合的に提供することを核にして貢献する」というビジョンを掲げ、相澤病院には「地域の広域型中核病院として救急医療と急性期医療を充実させ、地域医療機関との連携を強化する」相澤東病院には「地域包括ケアの核となる地域密着型病院として医療・介護・在宅療養の円滑な連携協働を構築する」相澤健康センターには「疾病の早期発見と生活習慣病及び介護の重度化予防により健康で活力ある社会づくりに貢献する」地域在宅医療支援センターには「安全で質の高い在宅医療・介護を提供する」をビジョンとして掲げた。慈泉会のビジョン達成のためには、これら4つの事業体及び職員間の連携・協働の一層の推進が必要とされた。
新たなビジョンの策定とこれからの社会情勢の予測から、慈泉会の将来を安定したものとするために、人事制度と年金制度の刷新の時期は本年をおいてはないとの決断を下して、刷新を実行した。この刷新はどれほど真摯で正確な説明をしたとしても、職員に不安や疑念などを生じさせ、退職者の増加や就職希望者の減少につながることが懸念された。地味ではあるが重要で難しい刷新を大過なく成し遂げた人事部は慈泉会の誇りである。この場を借りて心からの謝辞をささげたい。
 急性期病院として入院患者の平均在院日数を短縮し、日帰り手術が可能な患者にはできるだけ外来手術とすることを推進したが、人口の減少と地域内の各病院の頑張りから相澤病院への新入院患者数は減少(特にがん患者の手術数の減少)し、入院の利用率は低下することとなった。結果として、病院の入院収入は頭打ちとなったため、入院日数の適切な管理や紹介専門外来の強化充実等を行ったが不十分であり、成果は得られていない。今後のさらなる取り組みが期待される。また、脳神経外科が構築した二次医療圏外の病院との間における遠隔画像診断システムは、広域型医療を目指す相澤病院の将来像の一つとなると思われ、これからの進歩・発展を強力に支援したい。
 相澤東病院は、地域包括ケアの中核病院として、また地域包括ケア病棟のみの病院としての姿が固まりつつあり、地域との関係構築や地域へ出向くサービスの開始等ビジョン達成に向けて順調に機能を拡充している。来年度の12床増床も決まり、これからの発展が大いに期待される。
地域在宅医療支援センターは、職員が充足されない状況の中、需要の増加を上手くとらえて業績を伸ばしている。北部地域包括支援センターの活動も軌道に乗り、在宅療養における医療・介護の総合的サービスの中核拠点として機能を充実させている。本年は介護カルテを相澤病院や相澤東病院と共通のS社のものに移行する大きな事業を抱えていたが、2018年2月には無事に移行できた。今回構築したICTの仕組みを最大限に活用して、さらなる事業の拡充を図ってほしいと願っている。
相澤健康センターは、「Aiプラチナ会員制度」導入や新たなドックの開発、保健指導実施施設認定を長野県内で初めて受ける等これからの時代に求められる健診施設を目指して様々な創意工夫を重ねている。
専門医機構による専門医制度が来年から開始される。相澤病院は外科・内科・救急科が基幹病院と認定され、他科は信州大学の連携病院として専攻医研修を担っていく。今後の動向をしっかりと把握して、必要な専門医をしっかり確保していきたい。
医療を取り巻く環境は激動しており、我が国では混迷と混乱続いている。そんな中、慈泉会では将来を見通して新たなビジョンを策定し、経営基盤の改革も行った。あとはビジョン達成に向けてぶれることなく職員の一致協力により歩みを進めていくだけである。未来は自らの力と手で創るしかない。



 

社会医療法人財団 慈泉会 理事長 相澤孝夫